alone日記

このブログは、ぼっちの変な人が日常や考えを述懐していく日記です。

芥川賞受賞作『推し、燃ゆ』を17歳が読んでみた。

どうすることもできない息苦しさを感じた

 第164回芥川賞受賞作 宇佐美りん著『推し、燃ゆ』を読みました。芥川賞受賞直後ぐらいに購入していたのですがなかなか読まず、一昨日から読み始めて今日で読み終わりました。私は第163回芥川賞受賞作 遠藤遥著『破局』を前に読んでいたので芥川賞受賞作の物語の雰囲気はなんとなく分かっていました。この『破局』は主人公が少し不気味だがどこにでもいそうな大学生で題にある通り最後は見事なまでの破局を迎えることとなります。そしてこの『推し、燃ゆ』の主人公もまた終始重苦しさが感じられました。

概要

 主人公は女子高校生のあかり。彼女の唯一の生きがいは推しを推すことだった。アイドルグループ「まざま座」の上野真幸くんを猛烈に推している。そしてその真幸くんがファンを殴ったということが一文目で示される。初っ端から衝撃である。あかりは保健室通いであったり病院でふたつほど診断名がついている。病名は明かされていないが生きづらさに大きくかかわる病であることは確かであろう。そんな普通の生活がままならないあかりが唯一心が軽くなれるのが推しを推すことであった。

全体的な感想

 あかりの苦しさがすごい伝わってきた。そして同じように推しの上野真幸くんも生きづらさを抱えて生きてきたのだろう。あかりの病名はわからないが大体このような病気であろうことは予測できる。あかりが普通ではないことを表している描写は沢山出てくる。特に分かりやすい描写はバイトの場面だ。あかりは飲食店のバイトをしているが飲食店では注文や会計など様々な情報が飛び交う。あかりはその情報をしっかりと受け止めて対処することが出来ない。一度で済む作業を何度も忘れて戻ってくるなどやはり普通ではない。忘れること以外にも部屋が散らかっている描写もよく出てくる。そしてあかりの病はおそらく後天性のものではないと私は考える。小学校の漢字の五十問テストもあかりだけ年度終わりまでに合格することが出来なかった。あかりはとても努力をしているがそれではどうすることもできないほどである。『推し、燃ゆ』はそんな生きづらさに焦点を当てた作品である。正直、読み進めるのはつらかった。あまりにも辛い現実があかりを待ち受けているのだ。推しを推すことは彼女の存在証明という意味合いも兼ねていた。だが、もし推しが消えたらどうなるだろう。あかりの生きる意味さえなくなってしまうのだ。それは仕事を定年退職した老後のようなものである。ネタバレはあまりしたくないので全体的な感想はここまでとしておく。是非皆さんに実際に読んでもらいたい。

高校生として自分として感じたところ

 主人公のあかりは女子高生であり作中では17-18歳の場面を描いている。私も作中のあかりと同じでちょうど17歳である。私の身の回りにもアイドルを推している人がいる。私は彼ら彼女がなぜそんなに大金を貢いで推しを推すのかがよく分からなかったのだがこの本を読んで少しだけ分かった気がした。彼らにとって推しは生きがいであり生きる糧なのだ。それだけその推しに対して惹かれたものがあったわけである。でもあかりは彼ら彼女とは決定的に違うところがある。それは推しを推すことだけが彼女の存在証明だということだ。多くの高校生は皆いろんなことに対してアイデンティティを持っている。学校の友人や趣味、部活などだ。でもあかりが生きる理由はただ一つ、推しを推して解釈することだけだ。果たしてそれは悲しいというべきなのかは分からないが明らかに異なる点ではある。読んだ後に自分の背骨のような存在が一つだけということの危険性というか脆さのようなものも感じた。自分の背骨が一本だとすぐに折れてしまう。でもたくさんあれば簡単には折れない。私自身は正直、アイデンティティがない人間だ。仲の良い友達もいないし特に熱中している趣味もない。心の中に大きな空虚が存在している。そんな人間は危機に直面したらすぐに折れ壊れてしまう。私は改めて背骨のような生きる糧が必要というか見つけないといけないと思った。本文のなかで特に印象に残っていた言葉がある。「飛べると思っていたわけではない。それでも音と音のあいだが僅かずつ長くなり、いつか何も聞こえなくなることをあのときあたしはどこかで待ち続けていた。」この箇所である。要するに息苦しさから解放されて楽になりたい軽やかに過ごしたいということだと私は思った。私はずっと重りのようなものがついているのではないかと思うぐらいずっと息苦しい。なんで友達が出来ないんだろう、なんで会話がすぐに途切れちゃうんだろう、なんで人と話していてもあまり楽しくないんだろう、自分を満たしてくれるものって何だろう、幸せってどうすれば感じられるんだろう。そんなことを常々考えてきた。本当に自分は空虚な人間だと思った。あかりも普通との乖離に息苦しさを感じている。息苦しさの正体はまだ分からない。だけどいつかこの息苦しさから解き放たれたら楽になれるのになあと思う。

 ここまで読んでくださった方々、本当にありがとうございました。是非『推し、燃ゆ』を読んでみてください。あと『破局』もおすすめです!

 ありがとうございました。